収穫したてのさつまいも、掘った後すぐに食べるのは少し待ってください。実は、収穫直後のさつまいもは甘みが少なく、「掘った後」の適切な処理と保存方法が、本当の美味しさを引き出す鍵となります。
収穫後に天日干し(または陰干し)を行い、一定期間「寝かせる」(追熟・熟成)ことで、さつまいもを驚くほど甘くすることができます。この記事では、さつまいもを収穫後(掘った後)に寝かせる理由と、家庭でできる正しい熟成方法(保存方法)、さらに農家の保存方法の秘訣まで、詳しく解説します。
- なぜ掘った後に寝かせると甘くなるのかが分かる
- 家庭でできる正しい熟成方法(保存方法)の手順
- 「農家の保存方法」であるキュアリングとは何か
- 腐らせないための最適な温度・期間・注意点
さつまいもを「掘った後」に寝かせると甘くなる理由
掘った後すぐ食べると甘くない?

掘った後すぐ食べると甘くない?
芋掘りなどで収穫したばかりのさつまいも。掘った後すぐに調理して食べてみて、「思ったより甘くない」「ホクホクはするけど味が薄い」と感じた経験はありませんか?
それもそのはず、収穫直後のさつまいもの主成分はデンプンです。この状態ではまだ甘みがほとんどなく、私たちが期待するようなしっとりとした甘さはありません。もちろん、掘った後すぐ食べる場合でも、蒸したり焼いたりすれば品種本来のホクホクとした食感を楽しむことはできます。
しかし、それはまださつまいもの持つポテンシャルを最大限に引き出した状態とは言えません。収穫したてのさつまいもは、これから時間をかけて甘くなるための「準備段階」にあるのです。
「寝かせる」=「追熟」でさつまいもを甘くする方法

収穫したさつまいもを劇的に甘くする方法、それが「寝かせる」ことです。この工程を専門用語で「追熟(ついじゅく)」または「熟成」と呼びます。
さつまいもは収穫された後も生きており、呼吸を続けています。適切な環境で一定期間寝かせることで、イモ内部に元々含まれている「β-アミラーゼ」という酵素が活発に働き始めます。
この酵素が、甘みのないデンプンを甘い糖(主に麦芽糖やショ糖)へと分解していきます。この化学変化を「糖化」と呼びます。
追熟(熟成)の効果
- 甘みの大幅アップ: デンプンが糖に変わることで、糖度が収穫直後の2倍近く(例えば糖度8度が16度以上に)なることもあります。
- 食感の変化: 追熟の過程でイモ内部の水分や旨味も増え、パサパサとした食感から、しっとり・ねっとりとした食感へと変化します。(品種によります)
つまり、「寝かせる」という時間は、さつまいもが自らの力でデンプンを糖に変え、美味しくなるために必要な「熟成期間」なのです。このひと手間が、家庭菜園のさつまいもを、お店で売っているような甘いさつまいもに変身させる鍵となります。
家庭でできる「寝かせる」保存方法(追熟のやり方)

家庭で追熟を成功させるための手順は、主に3つのステップに分けられます。この「乾燥」「保湿」「保管」という保存方法のポイントを押さえれば、誰でも簡単に行えます。
ステップ1:乾燥させる(洗わない)
まず、収穫したさつまいもは絶対に水で洗いません。さつまいもの皮は非常にデリケートで、水洗いすると小さな傷がつき、そこから腐敗菌が侵入しやすくなります。土は軽く手で払い落とす程度にしてください。
次に、表面に残った水分(収穫時に傷口から出るヤラピンという白い液体など)を乾かすため、半日~3日ほど陰干し、または軽く天日干しします。これにより、傷口が乾いてコルク層(かさぶた)が形成され、長期保存性が高まります。
ステップ2:新聞紙で包む(保湿・呼吸確保)
表面がしっかり乾いたら、さつまいもを1本ずつ新聞紙で優しく包みます。新聞紙がさつまいもの呼吸を妨げず、なおかつ追熟に最適な高い湿度を保つという、非常に優れた役割を果たしてくれます。キッチンペーパーでも代用可能です。
ラップやビニール袋で完全に密閉するのは絶対に避けてください。さつまいもが呼吸できなくなり、湿気がこもりすぎてカビや腐敗の原因となります。
ステップ3:ダンボールに入れて保管
新聞紙で包んださつまいもを、通気性のあるダンボール箱やコンテナ、あるいは空気穴を開けた発泡スロールの箱などに入れます。イモ同士がぶつかって傷がつかないよう、優しく並べましょう。蓋は密閉せず、空気が通るように少し開けておくか、かぶせる程度にします。
追熟(熟成)に最適な温度と湿度とは

追熟(糖化)を成功させるためには、保管する「環境」が最も重要です。さつまいもは非常にデリケートで、最適な環境でないと甘くなるどころか腐敗してしまいます。
この「温度13~15℃」というのが、前述のデンプンを糖に変える酵素(β-アミラーゼ)が最も効率よく働く温度帯です。また、さつまいもは乾燥を嫌うため、湿度も高め(85~90%)が理想とされます。新聞紙で包むのは、この高い湿度をイモの周囲に保つためにも役立ちます。
家庭内でこの条件に近い場所を探すなら、暖房の影響を受けない北側の部屋や、床下収納、玄関の隅など、年間を通じて温度変化が少ない冷暗所が候補になります。
温度が高すぎるとどうなる?
逆に温度が20℃以上になると、追熟よりも「発芽」が促進されてしまいます。さつまいもの芽はじゃがいもの芽と違って毒性はありませんが、芽の成長に栄養が取られてしまい、イモ本体の味が落ちる原因になるため注意が必要です。
冷蔵庫での保存は低温障害に注意

「温度が低い方が長持ちしそう」と考え、冷蔵庫(特にチルド室や通常の冷蔵室)に入れるのは絶対にNGです。
さつまいもは熱帯性の植物であり、寒さに非常に弱いです。10℃以下(特に9℃以下)の環境に置かれると「低温障害」という状態になり、細胞が壊れてしまいます。
専門機関も、さつまいもの保存適温は13℃前後であり、10℃以下では低温障害を起こしやすいと注意喚起しています。(参考:日本いも類研究会:Q さつまいもの保存方法を教えてください」)
低温障害のサイン
- 皮の色が黒っぽく変色する、または艶がなくなる
- 切った断面に黒い斑点やスジが出る
- 加熱しても甘くならず、苦味が出ることがある
- 追熟(糖化)が完全にストップしてしまう
一度低温障害を起こすと元には戻らず、腐敗しやすくなります。冬場に窓際など寒すぎる場所に置くのも避け、必ず10℃以上を保てる場所で追熟させてください。
夏場でどうしても高温(20℃以上)を避けられない場合に限り、新聞紙に包んでポリ袋に入れ、野菜室(10℃以下になりにくい)で短期保存するという方法もありますが、これは追熟ではなく「保存」が目的です。
さつまいもを「掘った後」に寝かせる最適な処理と熟成方法
掘った後の「天日干し」は重要?下処理のポイント

さつまいもを収穫した後、追熟(寝かせる)工程に入る前の最初のステップが「乾燥」です。これは腐敗を防ぎ、長期保存性を高めるために非常に重要な作業です。
収穫したさつまいもは、土の中の水分や、掘った時の傷口から出る水分(ヤラピン)を含んでいます。この水分が残ったままだと、そこがカビや雑菌の温床となり、腐敗の原因となります。
サブキーワードにもある天日干しも有効ですが、強い直射日光に長時間(数日)当てるとイモが日焼けして傷む場合があるため、「直射日光の当たらない風通しの良い場所での陰干し」または「収穫当日の数時間程度の短い天日干し」が最も推奨されます。
期間は天候にもよりますが、半日~3日程度行い、イモの表面が完全に乾いた状態にします。この適切な「処理」を経ることで、イモの表面や、収穫時にできた小さな傷口が乾いて「コルク層」という”かさぶた”のような保護組織が形成されます。
このコルク層がバリアとなり、病原菌の侵入を防ぎ、貯蔵性が格段にアップするのです。
農家の保存方法「キュアリング」とは?

家庭で行う「天日干し」や「陰干し」は、実は「農家の保存方法」を簡易的にしたものです。農家が貯蔵庫で行う本格的な下処理(熟成方法)を「キュアリング処理」と呼びます。
これは、収穫したさつまいもを意図的に高温多湿の環境に置くことで、傷口のコルク層形成を強力に促進させる技術です。
専門的なキュアリング処理
農家や貯蔵施設では、以下のような環境でキュアリングを行います。
- 温度:30℃~33℃
- 湿度:90%~95%
- 期間:3~4日間
(参考:一般財団法人いも類振興会:サツマイモのキュアリング・貯蔵)
この処理により、コルク層が迅速かつ強固に形成され、長期貯蔵中の腐敗率が劇的に低下します。私たちが家庭で行う「天日干し」や「陰干し」は、この本格的な処理の簡易版として、腐敗を防ぐために非常に重要な作業なのです。
追熟期間は収穫状況で変わる

「どのくらい寝かせればいいのか?」という追熟期間は、そのさつまいもが「いつ収穫されたか」によって大きく異なります。この違いを知らないと、せっかくの追熟も効果が半減してしまいます。
家庭菜園で「収穫したて」の場合
家庭菜園や芋掘りで収穫したばかりのさつまいもは、デンプンがたっぷり詰まった状態ですので、しっかりとした追熟期間が必要です。
最低でも2週間、できれば1ヶ月~2ヶ月ほどじっくりと寝かせると、デンプンの糖化が進み、甘みが最大になります。安納芋のようなねっとり系の品種は、さらに長く3ヶ月程度寝かせることもあります。
スーパーなどで「購入した」の場合
一方で、スーパーや八百屋で購入したさつまいもは、すでに出荷前の貯蔵庫で(キュアリング処理の後)ある程度の期間、追熟されていることがほとんどです。
そのため、購入後にさらに甘みを増したい場合でも、家庭での追熟期間は1週間~2週間程度で十分な場合が多いです。
| さつまいもの状態 | 推奨される追熟期間 | 備考 |
|---|---|---|
| 家庭菜園で収穫したて | 1ヶ月 ~ 2ヶ月 | デンプンが多いため、しっかり寝かせる。 |
| スーパーなどで購入 | 1週間 ~ 2週間 | 既に出荷段階で追熟が進んでいるため。 |
掘った後のイモは、2週間ごとに1本ずつ食べてみて、甘さや食感の変化をチェックするのも家庭菜園の醍醐味ですよ!
追熟(熟成)後、さらに甘くする調理法

追熟(熟成)を終えて糖分が増えたさつまいもは、最後の仕上げである「調理」によって、さらに甘みを引き出すことができます。追熟が「甘みの素(糖)を増やす」作業なら、調理は「残ったデンプンをさらに糖に変える」作業です。
ポイントは、さつまいものデンプンを糖に変える酵素(β-アミラーゼ)が最も活発に働く温度帯である「60℃~75℃」を、いかに長く保つかです。
この温度帯をゆっくりと通過させることで、追熟で残っていたデンプンも効率よく糖に変わります。
甘みを引き出す加熱法(推奨)
- 焼き芋(オーブン): 160℃程度の低温設定で、90分以上かけてじっくり中心部まで加熱します。これが最も酵素の働きを引き出せます。
- 炊飯器: 炊飯器にイモと少量の水を入れ、通常の炊飯モード(または玄米モード)で加熱します。じっくり熱が通るため甘くなります。
- 蒸し器: 沸騰した蒸し器でじっくり蒸します。
甘みが出にくい加熱法(注意)
- 電子レンジ: 電子レンジは急激に高温(100℃以上)になるため、酵素が働く温度帯(60~75℃)を一瞬で通過し、酵素が失活(活動停止)してしまいます。そのため、デンプンが糖に変わる時間がなく、甘みが引き出されません。
追熟させたさつまいもは、ぜひ「じっくり低温加熱」で、その甘みを最大限に引き出して調理してみてください。
まとめ:さつまいもは収穫後(掘った後)に寝かせるのが正解

さつまいもを収穫した後、または掘った後の取り扱いについて、要点をまとめます。甘くて美味しいさつまいもを楽しむためには、「寝かせる(追熟・熟成)」工程と正しい保存方法が不可欠です。
- さつまいもは収穫後(掘った後)に寝かせることで甘みが増す
- 掘った後すぐ食べるとデンプンが多く甘くない
- 寝かせることを「追熟」または「熟成」と呼ぶ
- 追熟によりデンプンが糖に変わり食感も向上する
- 掘った後の処理として水洗いはせず「天日干し(陰干し)」で乾かす
- 乾燥(処理)で腐敗を防ぎコルク層が形成される
- 農家の保存方法は「キュアリング」という本格的な処理を行う
- 家庭での保存方法は新聞紙で包みダンボールで保管する
- 熟成方法に最適な温度は13℃から15℃
- 最適な湿度は85%から90%
- 10℃以下の冷蔵庫保存は低温障害を起こすためNG
- 収穫したてのイモは1ヶ月から2ヶ月寝かせる
- スーパーのイモは1週間から2週間の追熟で良い
- 追熟後は60℃から75℃の低温でじっくり加熱するとさらに甘くなる

