さつまいもを植えようと思っていたのに、気づけばもう7月。「今からでも間に合うのだろうか?」と焦っている方もいらっしゃるかもしれません。家庭菜園の計画が遅れてしまったり、梅雨の影響で作業ができなかったりと、事情は様々でしょう。
結論から言えば、さつまいもの7月の植え付けは「ギリギリ可能」ですが、適期とは異なる注意点があります。
この記事では、さつまいもの7月の植え付けに関する限界時期や、遅植えのリスクをカバーして秋に収穫するための具体的な栽培方法まで、詳しく解説していきます。
- 7月植え付けの限界時期とデメリット
- 遅植えを成功させるための具体的なコツ
- 植え付け後の水やりやマルチの重要性
- 遅植えの場合の収穫時期の目安
さつまいもを7月の植え付け|知るべきリスクと準備
さつまいもの植え付けの限界は7月上旬
さつまいもの植え付け適期は一般的に5月下旬から6月中旬とされています。このため、7月に入ってからの作業は「遅植え」にあたります。
結論として、さつまいも植え付けの限界は7月上旬、遅くとも中旬までがリミットと考えられています。7月下旬になると、収穫できるサイズや量の大幅な減少が避けられません。
この理由は、さつまいもの生育に必要な期間と気温にあります。
生育期間と地温の関係
- さつまいもは植え付けから収穫まで、約110日~130日の生育期間が必要です。
- 芋(塊根)が大きく肥大するには、一定の地温が求められます。
- 地温が15℃以下になると芋の肥大は鈍化・停止し、霜に当たると芋が傷んでしまいます(参考:北海道立総合研究機構:さつまいも 栽培マニュアル)。
例えば、7月10日に植え付けた場合、収穫目安は110日後の10月下旬頃です。もし植え付けが7月下旬になると、収穫が11月中旬以降にずれ込み、霜が降りる時期と重なってしまいます。芋が十分に太る前に、生育が強制的に終了してしまうわけです。
そのため、7月に入ったら1日でも早く植え付けることが、収穫量を確保する最大のポイントになります。
植え付け時期が遅いことによる注意点
7月という植え付け時期が遅い場合に、特に注意すべき点が3つあります。これらは適期(5月〜6月)の植え付けでは問題になりにくい、遅植え特有の課題です。
1. 芋が肥大する期間の短縮
前述の通り、最大の懸念事項は生育期間の短さです。植え付けが遅れれば遅れるほど、芋が地中で大きく成長できる時間が物理的に短くなります。秋の気温低下が始まるまでに、どれだけ芋を太らせることができるかが勝負です。
2. 高温・乾燥による「活着」の難易度上昇
さつまいもは乾燥に強い作物ですが、それは根付いた(活着した)後の話です。植え付けたばかりの苗は非常にデリケートです。 7月は梅雨明けと重なることも多く、強烈な日差しと高温、土の乾燥にさらされます。苗が根付く前に枯れてしまうリスクが、5月〜6月の植え付けよりも高くなる点に注意が必要です。
3. 入手できる苗の品質低下
ホームセンターや種苗店でのさつまいも苗の販売ピークは5月〜6月です。7月になると、苗は「売れ残り」となっているケースが多くなります。
茎が細く間延びしていたり(徒長苗)、葉が黄ばんでいたり、全体的にしなびている(老化苗)など、品質の低い苗しか手に入らない可能性があります。元気のない苗からスタートすると、その後の生育の遅れを取り戻すのは困難です。
徒長した苗のリスク
茎が細く長く伸びた「徒長苗」は、植え付け後に「つるぼけ」しやすい傾向があります。つるぼけについては後ほど詳しく解説します。
把握しておくべき遅植えのデメリット
7月の遅植えに挑戦する前に、収穫に関して覚悟しておくべきデメリットを具体的に把握しておきましょう。
最も大きなデメリットは、収穫量の減少と芋のサイズが小さくなることです。
適期に植えた場合に比べて、芋の数が少なくなったり、一つひとつが小ぶりになったりする傾向が強くなります。これは、芋が肥大する期間が短いうえに、高温による活着の遅れや、苗自体の体力が影響するためです。
「適期植えと同じような、大きくて立派なさつまいもをたくさん収穫したい」という期待値で臨むと、結果にがっかりしてしまうかもしれません。
7月の遅植えは、「収穫量が減っても、サイズが小さくても、自家製のさつまいもを秋に楽しみたい」というスタンスで臨むのが良いでしょう。もちろん、この後の栽培のコツを実践すれば、収穫量を最大化することは可能です。
成功を左右するさつまいも苗の選び方
遅植えのハンデを克服するためには、スタートダッシュが何よりも重要です。そのため、さつまいも苗の選び方は、適期植え以上にシビアになる必要があります。
7月に苗を購入する際は、以下のポイントをチェックしてください。
7月に選ぶべき「元気な苗」の条件
- 葉の色:葉の色が濃く、ハリとツヤがあること。黄ばんだり、しおれたりしていないか確認します。
- 茎の太さ:茎が細すぎず、しっかりとしていること。鉛筆程度の太さがあれば理想的です。
- 節間(せっかん):葉と葉の間(節間)が、間延びしていないこと。節間が詰まっている苗は丈夫に育ちます。
- 根の状態:ポット苗でなくても、切り口や節から白い根が出始めている苗は非常に元気で、活着しやすい証拠です。
逆に、以下のような苗は避けるべきです。
避けるべき「弱い苗」
- 茎がヒョロヒョロと細く、葉と葉の間隔が異常に空いている(徒長苗)
- 葉が黄色く変色していたり、枯れた部分がある
- 全体的に元気がなく、しなびている
もし元気な苗が手に入らない場合は、無理に植え付けず、来年に見送るという判断も大切です。弱い苗からスタートしても、満足のいく収穫は難しくなります。
つるぼけさせないための栽培管理方法
「つるぼけ(蔓ボケ)」とは、さつまいもの葉や茎(つる)ばかりが過剰に茂ってしまい、肝心の芋がまったく太らない状態を指します。
遅植えの場合、ただでさえ芋が太る期間が短いのに、つるぼけしてしまうと収穫は絶望的になります。つるぼけの主な原因は「窒素(チッソ)肥料の与えすぎ」です(参考:日本いも類研究会 :さつまいもの肥料はどれくらい必要ですか)。
さつまいもは非常にやせた土地でも育つ作物であり、多くの肥料を必要としません。特に窒素分が多いと、芋ではなく葉や茎を成長させることに養分が使われてしまいます。
元肥(もとごえ)は控えめに
植え付け前に畑に入れる肥料(元肥)は、窒素分を控えるのが鉄則です。市販のさつまいも専用肥料を使うのが最も安全です。
特に注意が必要なのは、前作(以前に育てていた野菜)の肥料が残っている畑です。例えば、トマトやナス、トウモロコシなど、肥料を多く必要とする野菜の後作としてさつまいもを植える場合、畑に窒素分が大量に残っている可能性があります。
このような場合は、元肥を一切施さなくても良いくらいです。
追肥(ついひ)は原則不要
さつまいもは、生育途中での追肥は原則として必要ありません。葉の色が極端に薄くなるなど、明らかな肥料切れのサインが出ない限りは、追肥(特に窒素肥料)を与えないでください。これがつるぼけを防ぐ最大のポイントです。
「つる返し」は必要?
つるが伸びてきたとき、節から出た根が地面に張るのを防ぐために「つる返し」という作業があります。これはつるぼけ対策の一つですが、7月の遅植えでは生育期間が短いため、つるを返す作業が逆に株のストレスになることもあります。マルチをしていれば根張りを防げるため、必須の作業ではありません。
さつまいもを7月の植え付けを成功させる栽培のコツ
植え付け方は斜め植えがおすすめ
さつまいもの植え方には、主に「垂直植え」「斜め植え」「水平植え(船底植え)」があります。それぞれ特徴が異なりますが、7月の遅植えでは「斜め植え」が最もおすすめです。
植え方 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
水平植え | 苗を地面と水平に、浅く植える | 芋の数が多くなりやすい | 浅植えのため乾燥に弱く、活着しにくい |
斜め植え | 苗を30~40度ほどの角度で斜めに植える | 活着が早く、芋も太りやすい。バランス型。 | 芋の数は水平植えより減る |
垂直植え | 苗を垂直(まっすぐ)に立てて植える | 深く根を張り、大きな芋ができやすい | 芋の数が少なくなる |
「水平植え」は収穫できる芋の数が多くなるため人気ですが、浅く植えるため土の乾燥の影響を受けやすく、7月の高温期には活着に時間がかかるリスクがあります。
一方、「斜め植え」は、苗が土に触れる面積が適度に確保され、根付きやすい(活着しやすい)のが最大のメリットです。活着がスムーズに進めば、その後の生育も早くなります。また、芋の数は水平植えに劣りますが、生育期間が短くても比較的早く芋が太りやすい傾向があります。
限られた時間で確実に芋を育てるために、7月植えでは「斜め植え」を選択するのが賢明です。
植え付け後の水やりはいつまで必要か
「さつまいもは乾燥に強いから水やりは不要」という情報をよく見かけますが、これは大きな誤解を招く可能性があります。
確かに、一度根付けば乾燥に強い作物です。しかし、植え付けたばかりの苗が根付く(活着する)までの期間は、大量の水を必要とします。
特に7月は高温と乾燥のピークです。植え付け直後に水やりを怠ると、苗はひとたまりもなく枯れてしまいます。
活着するまでの水やり徹底期間
植え付け後、最低でも1週間~10日間は、土の表面が乾いたら「毎日」たっぷりと水を与えてください。水やりは、気温が下がる朝夕の涼しい時間帯に行うのが理想です。
活着のサイン
苗の中心(先端)から新しい葉が展開し始め、葉全体がシャキッと立ち上がってきたら、それが「活着したサイン」です。
このサインが確認できたら、水やりはストップしてください。活着した後に水を与えすぎると、逆につるぼけの原因になったり、根腐れを起こしたりします。
7月植えの成否は、この「活着するまでの水やり」と「活着後の水断ち」のメリハリにかかっていると言っても過言ではありません。
黒マルチを活用して地温を確保しよう
7月の遅植え栽培では、ぜひ「黒マルチ」(黒いビニールフィルム)の使用をおすすめします。マルチには、遅植えのデメリットをカバーする多くのメリットがあります。
1. 雑草の防止 植え付け直後の苗は、雑草との競争に弱いです。マルチが雑草の光合成を防ぎ、除草の手間を省くとともに、苗が養分を独占できるようにします。
2. 土壌水分の保持 植え付け直後の乾燥を防ぐ上で非常に有効です。土の水分蒸発を抑え、苗の活着を強力にサポートします。
3. 秋以降の地温確保(最重要) 7月植えで最も重要なのがこの効果です。黒マルチは太陽熱を吸収しやすく、地温を高く保つ効果があります。 秋になり気温が下がってきても、黒マルチが地温の低下を緩やかにし、芋が肥大できる期間を少しでも長く稼いでくれます。
真夏の地温上昇は大丈夫?
「真夏に黒マルチを使うと地温が上がりすぎるのでは?」と心配されるかもしれません。確かにその側面はありますが、さつまいもは高温を好む作物であり、地温上昇によるデメリットよりも、上記3つのメリット(特に秋の地温確保)が上回ると考えられています。
どうしても地温上昇が気になる場合は、株元だけ「わら」や「刈草」を敷く(わらマルチ)方法もありますが、地温確保の効果は黒マルチに劣ります。
遅植えに向いているさつまいもの品種
7月植えという限られた生育期間で収穫を目指す場合、可能であれば「早生(わせ)品種」を選ぶのが有利です。早生品種とは、生育期間が比較的短くても収穫できるタイプの品種を指します。
ただし、現実問題として、7月になるとホームセンターなどで選べる品種は限られています。
品種にこだわるあまり、植え付けがさらに遅れてしまっては本末転倒です。「遅植えに向く品種を探す」ことよりも、「今、手に入る最も元気な苗を、1日でも早く植える」ことを最優先してください。
もし品種を選べる場合の参考として、タイプ別の代表品種を紹介します。
生育タイプ | 代表品種 | 特徴 | 7月植え適性 |
---|---|---|---|
早生種 | 紅あずま、金時(高系14号、鳴門金時など) | 生育期間が比較的短い(約110日~)。 | ◎ 向いている |
中生~晩生種 | 紅はるか、安納芋、シルクスイート | 生育期間が長い(約130日~)。じっくり芋が太るタイプ。 | △ 芋が小さくなるリスクが高い |
(※品種の生育期間は栽培地域や環境により異なります)(参考:農研機構:育成品種(かんしょ)一覧)
「紅はるか」や「安納芋」などのねっとり系の人気品種は、芋が十分に太るまでに時間がかかる晩生種が多い傾向にあります。7月植えでこれらの品種に挑戦する場合、収穫サイズはかなり小ぶりになることを想定しておきましょう。
さつまいもの収穫時期とその見極め方
7月に植えたさつまいもの収穫時期は、品種の早晩性(そうばんせい)にもよりますが、おおむね植え付けから110日~120日後が目安となります。
【収穫時期の目安】
- 7月上旬(7/10頃)に植えた場合 → 10月下旬~11月上旬
- 7月中旬(7/20頃)に植えた場合 → 11月上旬~11月中旬
通常、さつまいもの収穫サインは「葉が黄色く枯れ始めてきた頃」とされますが、遅植えの場合は、まだ葉が青々としていても収穫適期(またはリミット)を迎えることがあります。
収穫リミットは「霜が降りる前」
さつまいもの芋は寒さに非常に弱く、霜に一度でも当たると急速に傷み始め、貯蔵ができなくなります。
収穫目安の時期になったら、天気予報をこまめにチェックし、お住まいの地域で「初霜」が予想される1週間前までには、すべての収穫を終えるようにしてください。これが遅植え栽培の絶対的なルールです(参考:JA里浦:さつまいもが黒い?その原因と対処法を徹底解説!)。
目安時期が来たら、まずは試し掘りをして芋の太り具合を確認し、霜が降りる前に収穫作業を完了させましょう。
さつまいもを7月に植え付け成功のポイントまとめ
- さつまいもを7月の植え付けは「遅植え」にあたる
- 植え付けの限界リミットは7月上旬から中旬
- 7月下旬になると収穫量の極端な減少が予想される
- 遅植えの最大のデメリットは芋が肥大する期間の短縮
- 収穫量は減り、芋のサイズも小さくなる傾向がある
- スタートダッシュが重要なため元気な苗を選ぶ
- 葉色が濃く、茎が太く、節間が詰まった苗を選ぶ
- 徒長した苗やしなびた苗は避ける
- つるぼけを防ぐため窒素肥料は控える
- 前作の肥料が残っている畑では元肥は不要な場合もある
- 追肥は原則行わない
- 植え方は活着しやすく芋が太りやすい「斜め植え」を推奨
- 植え付け後1週間は「毎日」たっぷりと水やりを行う
- 苗の中心から新芽が動いたら(活着したら)水やりを止める
- 黒マルチの活用を強く推奨
- 黒マルチは雑草防止、乾燥防止、秋の地温確保に役立つ
- 品種は早生種が向くが、品種選びより元気な苗を早く植えることが重要
- 収穫目安は植え付けから約110日後の10月下旬から11月中旬
- 最大の注意点は霜であり「初霜が降りる前」に必ず収穫を終える