さつまいも栽培に初心者が挑戦しようとするとき、ジャガイモのように種芋を切って植える方法を想像するかもしれません。
しかし、さつまいもは基本的に苗を植える栽培方法が一般的です。もし手元に芽が出たさつまいもがあり、その活用として畑へ丸ごと植えることを考えているなら、注意が必要です。その方法には収穫量が減る可能性や、病気のリスクといったデメリットが存在します。
この記事では、さつまいも栽培に関する正しい知識として、本来の種芋の使い方である苗作り(伏せ込み)の方法まで、詳しく解説していきます。
- 畑に芋を丸ごと植えるデメリット
- ジャガイモ栽培との根本的な違い
- 種芋を使った正しい苗作り(伏せ込み)の手順
- 芽が出たさつまいもを種芋として活用できるか
「芽が出たさつまいも、そのまま植えたらどうなるの?」 その疑問、よくわかります。しかし、さつまいも栽培にはジャガイモとは違う、特有の「ルール」があるんです。まずはその「誤解」から解き明かしていきましょう。
さつまいもの種芋をそのまま丸ごと植え方の誤解
「家で保存していたら、さつまいもから芽が出てしまった…」 「去年収穫した小さな芋があるけど、これをそのまま植えたら、また育つのかな?」
家庭菜園をしていると、そんな場面に出会うことがありますよね。ジャガイモ(馬鈴薯)は種芋を切って植えるため、「さつまいもも芋をそのまま植えればいいのでは?」と考えるかもしれません。
しかし、その「さつまいもの種芋をそのまま丸ごと畑に植える」という方法、実は大きな誤解が隠されています。
さつまいもは、ジャガイモとは栽培方法が根本的に異なります。もし誤った知識のまま植えてしまうと、「病気が発生しやすくなる」「収穫量が激減する」「芋が小さくしか育たない」といった失敗につながる可能性が非常に高いのです。
この記事では、なぜその植え方が推奨されないのか、という「誤解」の理由と、さつまいも本来の正しい増やし方(苗の作り方)について、分かりやすく解説していきます。秋の豊かな収穫のために、まずは栽培の「基本のキ」を押さえましょう。
畑への丸ごと植えは非推奨
結論から申し上げますと、収穫目的でさつまいもの芋(種芋)をそのまま畑に丸ごと植える方法は、おすすめできません。
ジャガイモと同じ感覚で植えてしまうと、期待したような収穫が得られない可能性が非常に高いです。さつまいもは、私たちが普段食べている「芋」の部分を直接植えて増やすのではなく、「苗(つる)」を植えて育てるのが一般的な栽培方法となります。
「丸ごと植える」という行為自体は、さつまいも栽培の工程に存在しますが、それは畑で芋を収穫するためとは目的が異なります。まずは、なぜ畑に丸ごと植えるのが推奨されないのか、その理由を見ていきましょう。
親芋を植える病気のリスク
畑に芋をそのまま植えることの大きなデメリットの一つが、病気のリスクです。
さつまいもは、「つる割病」などの土壌伝染性の病気にかかりやすいとされています(参考:(公社)日本植物防疫協会:サツマイモつる割病発生農家圃場における 発生要因)
もし、植えようとしている親芋(種芋)がウイルスや病原菌に感染していた場合、それがそのまま畑の土壌や、新しくできようとする芋に伝染してしまう恐れがあります。
病気の持ち込みに注意
特に、前年に収穫した芋や、食用の芋を種芋として使う場合、それらが病気を持っていないという保証はありません。病気が一度畑に広がると、その土壌では数年間さつまいもが作れなくなる(連作障害)可能性もあり、細心の注意が必要です(参考:全農:連作障害の回避)。
一方、園芸店などで販売されているさつまいもの「苗」は、こうした病気のリスクを避けるため、「ウイルスフリー苗」として専門的に生産・管理されているものが多くあります(参考:タキイ種苗株式会社:サツマイモ – 野菜栽培マニュアル | 調べる)。
収穫減と品質低下の懸念
仮に病気のリスクをクリアできたとしても、芋を丸ごと植える方法は収穫効率の面で非常に劣ります。
さつまいもは、芋から直接新しい芋ができるわけではなく、芋から伸びた「つる」の節々から根(不定根)が伸び、その一部が太って芋になります。
もし芋を丸ごと1箇所に植えてしまうと、どうなるでしょうか。
- 1箇所から大量のつるが密集して発生します。
- 栄養が分散し、それぞれのつるが十分に生育できません。
- 結果として、親芋の周りに小さく細長い芋や、形の悪い芋が数個できるだけで、期待するような収穫量にはまずなりません。
本来、1つの種芋からは10本~30本程度の苗(つる)を採ることが可能です。その苗を1本ずつ畑に植えれば、それぞれが1株として成長し、多くの芋を収穫できます。芋を丸ごと1個植えることは、その可能性をたった1株のために使ってしまう、非常に非効率な方法なのです。
ジャガイモの植え方との違い
多くの人が「芋を植える」と聞いてイメージするのが、ジャガイモ(馬鈴薯)の栽培方法です。
ジャガイモは、種芋をカットし、その「かけら」を土に植えます。これは、ジャガイモの「芋」が「茎(地下茎)」が肥大したものであり、芋にある「くぼみ(芽)」から新しい茎や根が伸びて成長するためです。
一方、さつまいもの「芋」は「根」が肥大したものです。そのため、芋本体を土に植えても、ジャガイモのようには増えません。さつまいもは、芋から発芽した「つる(茎)」を育て、その「つる」を土に植える(挿し芽・挿し苗)ことで、つるの節から新しい根を発生させ、芋を育てます。
項目 | ジャガイモ(馬鈴薯) | さつまいも(甘藷) |
---|---|---|
分類(食べる部分) | 茎(地下茎) | 根(塊根) |
増やし方 | 種芋(芋のかけら)を植える | 苗(つる)を植える |
属する科 | ナス科 | ヒルガオ科 |
このように、同じ「芋」と呼ばれていても、植物としての性質が根本的に異なることを理解するのが重要です。
スーパーの芋は種芋になる?
「では、スーパーで買ってきたさつまいもから芽が出た場合、これを種芋として使えないのか?」という疑問もよく聞かれます。
結論としては、「使えなくはないが、推奨しない」となります。
食用さつまいもを種芋にするリスク
スーパーなどで販売されている食用のさつまいもには、以下のようなリスクや特性があります。
- キュアリング処理:多くの場合、長期保存のために「キュアリング処理」(高温多湿の環境で表皮をコルク化させる処理)が施されています。(農研機構:輸送中のかんしょ腐敗への対応)。これにより、芽が出にくくなっている、あるいは逆に腐りやすくなっている場合があります。
- 病気のリスク:前述の通り、見た目では分からない病気(ウイルスなど)を持っている可能性を否定できません。
- 品種の不確かさ:品種名が表示されていても、それが苗作りに適した状態であるかは不明です。
もし、芽が出た芋をどうしても活用したい場合は、畑に直接植えるのではなく、次項で説明する「伏せ込み(ふせこみ)」という苗作りのために利用することを検討しましょう。
正しいさつまいもの種芋をそのまま丸ごと植える方法
本来の目的は「伏せ込み」
それでは、検索キーワードにもある「さつまいも 種芋 そのまま丸ごと 植え方」とは、何を指すのでしょうか。
これは、畑で芋を収穫するために芋を植えることではなく、畑に植えるための「苗(つる)」を育てる作業のことを指します。この作業を専門用語で「伏せ込み(ふせこみ)」と呼びます。
伏せ込みとは、種芋を丸ごと(あるいは半分にカットして)、プランターや育苗箱などの「苗床(なえどこ)」に浅く植え付け、保温・保湿して発芽させ、伸びてきたつるを収穫(苗取り)する一連の工程です。
「伏せ込み」が正しい種芋の使い方
つまり、「種芋を丸ごと植える」のは、畑ではなく苗床(プランターなど)であり、目的は芋の収穫ではなく苗の収穫です。ここが最大のポイントとなります。
伏せ込み(苗取り)の準備と時期
家庭菜園でも、プランターや発泡スチロールの箱などを利用して「伏せ込み」に挑戦することができます。
準備するもの
- 種芋:200~300g程度が目安。病気や傷、変色がなく、ハリのある健康な芋を選びます。
- 容器(苗床):深さが20cm程度あるプランターや発泡スチロール箱など。水抜き穴(排水穴)があることを確認してください。
- 土:園芸用の培養土や、清潔な畑の土で構いません。
- 保温資材:透明なビニールシートや、古い毛布など(温度管理に使います)。
伏せ込みの時期
伏せ込みを始める時期は、苗を畑に植え付けたい時期から逆算して、約1ヶ月半~2ヶ月前が目安です。
例えば、苗の植え付け適期が5月中旬~6月の場合、3月下旬から4月頃に伏せ込みを開始します。さつまいもの発芽には高い地温が必要なため、早すぎてもうまくいきません。
種芋の芽出しと温度管理
伏せ込みの手順で最も重要なのが、「温度管理」です。
伏せ込み(植え方)の手順
- 容器に土を半分ほど入れます。
- さつまいもを横向きに寝かせるように置きます。複数の芋を並べる場合は、芋同士が触れ合わない程度に間隔をあけます。
- 芋が隠れるか隠れないか、約5cmほどの深さになるように上から土をかぶせます。深く植えすぎると芽が出にくくなるため注意が必要です。
- たっぷりと水を与えます。
最重要ポイント:温度管理
さつまいもが発芽するための適温は、地温が25℃~30℃と、かなり高温です。伏せ込みを行う3月~4月はまだ気温が低いため、保温対策が成功のカギを握ります。
地温を確保する工夫
- 日当たりの良い、暖かい場所に置きます。
- 容器全体を透明なビニール袋で覆ったり、ビニールトンネルをかけたりして温室状態を作ります。
- 気温が下がる夜間は、発泡スチロールのフタをしたり、毛布で覆ったり、可能であれば室内(玄関先など)に取り込みます。
- 土が乾いたら水を与えますが、水のやりすぎは芋が腐る原因になります。地温が低い状態での過湿は厳禁です。
適切な温度が保てれば、約1ヶ月ほどでつるが次々と伸びてきます。
育った苗(つる)の収穫方法
伏せ込んだ種芋から順調に芽が伸びてきたら、いよいよ「苗」として収穫します。
つるが20cm~30cm程度(葉が6~7枚)に伸びたら、収穫のタイミングです。
ここで注意点!苗は芋から「引き抜く」のではありません。「カット」するのが正解です。
苗を収穫する際は、種芋(親芋)の根本から葉を2~3枚(2~3節)を残して、清潔なハサミやナイフで切り取ります。根本を残しておくことで、そこから再び脇芽が伸びてきて、時期をずらしながら1つの種芋から複数回(多い時で合計20本以上)苗を収穫することができます。
なぜカットするのか?
芋から引き抜かず、あえてカットするのにも理由があります。これは、万が一親芋が病気を持っていた場合に、病原菌を苗に持ち込ませないためです。カットすることで、病気のリスクをリセットする(断ち切る)意味合いがあります。
収穫した苗(つる)の植え方
伏せ込みで収穫した「つる(苗)」が、畑に植えるスタートラインです。
苗は、切ってからすぐに植えるよりも、日の当たらない涼しい場所で3~4日ほど置き、少ししんなりさせてから植える方が、土中での発根(不定根)が早いとされています。
畑への植え付け
- 畑には、水はけを良くするために高さ30cmほどの「畝(うね)」を作っておきます。
- 株間(苗と苗の間隔)は30cm程度あけます。
- 苗の植え方にはいくつか種類がありますが、家庭菜園では以下の方法が一般的です。
代表的な植え方
- 斜め植え:苗の根本を、土に対して45度くらいの角度で斜めに挿し込む方法です。手軽で、芋の数と大きさのバランスが良くなりやすいとされます。
- 水平植え(船底植え):苗を土と水平になるように、5cmほどの浅い深さに寝かせて植える方法です。つるの節が多く土に埋まるため、芋の数は多くなる傾向がありますが、一つ一つは小さめになることがあります。
初心者には市販の苗がおすすめ
ここまで「伏せ込み」の方法を解説しましたが、温度管理などが難しく、初心者にはハードルが高い作業です。 家庭菜園で手軽にさつまいもを楽しみたい場合は、5月頃から園芸店やホームセンターで販売される市販の「さつまいもの苗」を購入するのが、最も確実で簡単な方法です。
さつまいもの種芋をそのまま丸ごと植え方の要点
最後に、この記事で解説した「さつまいもの種芋をそのまま丸ごと植え方」に関する要点をまとめます。
- さつまいもを収穫目的で畑に丸ごと植えるのは非推奨
- 畑に丸ごと植えると病気のリスクや収穫減の懸念がある
- さつまいもは芋ではなく「苗(つる)」を植えて育てる
- ジャガイモ(茎)とさつまいも(根)は増え方が根本的に違う
- スーパーの芋は種芋として推奨されない
- 「種芋を丸ごと植える」とは苗作りの「伏せ込み」を指す
- 伏せ込みは畑ではなくプランターなどの苗床で行う
- 伏せ込みの目的は芋の収穫ではなく「苗」の収穫
- 伏せ込みの時期は苗の植え付けの1ヶ月半~2ヶ月前
- 種芋は200~300g程度の健康なものを選ぶ
- 伏せ込みは横向きに浅く植える
- 最も重要なのは地温25℃~30℃の温度管理
- 苗は20~30cmに伸びたら根本を数節残してカットする
- カットすることで病気のリスクを断ち切る
- 収穫した苗(つる)を畑の畝に植え付ける
- 初心者は市販の苗を購入するのが最も簡単で確実