秋の味覚の王様、さつまいも。家庭菜園で挑戦したいけれど、「どの肥料を選べばいいか分からない」「そもそも肥料は『いらない』と聞いたけど本当?」と悩んでいませんか?
「肥料をしっかりやったらツルばかり茂って、肝心のイモがまったくできなかった(=つるボケ)」という深刻な失敗談もよく耳にします。
この記事では、「いらない」と言われる理由から、それでも美味しい芋を収穫するために「おすすめ」したい肥料まで、さつまいも栽培の疑問を徹底的に解説します。元肥のタイミングや、安価な鶏糞や米ぬかは使って良いのか、その答えも明確にします。
さつまいも栽培の成功は、肥料の特性を正しく理解することが9割です。この記事で「つるボケ」を防ぎ、秋に甘くて大きなイモを収穫する秘訣を掴んでください。
- さつまいもに肥料が「いらない」と言われる本当の理由
- 「つるボケ」を招く窒素(N)の危険性
- それでも肥料が「おすすめ」な場合の黄金バランス(N少・K多)
- 初心者も失敗しない「さつまいも専用肥料」の選び方
- 元肥の時期、鶏糞・米ぬかの正しい使い方と注意点
- 肥料よりも重要な土づくりのポイント
さつまいもに肥料は「いらない」と言われる3つの理由
なぜ「さつまいもに肥料はいらない」とまで言われるのでしょうか。それには明確な3つの理由があります。
理由1:肥料が招く「つるボケ」の危険性

さつまいも栽培で肥料、特に窒素成分を与えすぎると、「つるぼけ(蔓ボケ)」という致命的な失敗を招く危険性が高まります。
「つるぼけ」とは、地上のツルや葉ばかりが過剰に茂ってしまい、肝心の土の中の芋(塊根)が大きくならない現象のことです。植物の成長に必要な三大要素(窒素・リン酸・カリウム)のうち、窒素は「葉肥え(はごえ)」とも呼ばれ、葉や茎の成長を促す役割が強いためです。
さつまいもが必要とする以上に窒素が土壌にあると、養分が芋の肥大ではなく、葉やツルの成長にばかり使われてしまいます。
「つるぼけ」のサイン
- ツルが不自然に太く、葉が濃い緑色でジャングルのように茂っている。
- 節と節の間(節間)が長く、間延びしている。
- 収穫時期になっても芋が全く太っていない、または細い根ばかり。
家庭菜園では、良かれと思って他の野菜と同じ感覚で肥料を与えた結果、この「つるぼけ」を招いてしまうケースが非常に多いです。これが、「さつまいもに肥料はいらない」と言われる最大の理由です。(出典:JAしみず:サツマイモ)
理由2:痩せた土地でも育つさつまいもの特性

さつまいもは、もともと栄養の少ない「痩せた土地」でも育つ非常にたくましい作物です。
その原産地は、中南米の乾燥し、地力の乏しい環境とされています。このような環境でも生き抜くために、土壌から肥料分を吸収する力が非常に強く進化しました。
また、根を広く深く張る能力にも長けています。わずかな養分や水分も逃さず吸収できるため、他の野菜が育ちにくいような土地でも栽培が可能です。
九州南部や関東平野でさつまいも栽培が盛んな理由の一つに、火山灰土(シラス台地や関東ローム層)が広がっていることが挙げられます。これらは水はけが良い一方で保水性もあり、養分は比較的少ない土壌であり、さつまいもの生育に適しています。 (参考:農林水産省:令和5年産かんしょの作付面積及び収穫量)
この「肥料の吸収力が強すぎる」という特性こそが、逆に肥料(特に窒素)を与えすぎると「つるぼけ」しやすい原因にもなっているのです。
理由3:野菜栽培の後は「無肥料」が基本(残り肥)

家庭菜園で他の野菜(トマト、ナス、キュウリ、葉物野菜など)を育てた後の畑でさつまいもを作る場合、基本的に新たな肥料は不要です。
理由は、前の野菜のために施した肥料が、土の中にまだ残っている(=残り肥 / 残肥)可能性が非常に高いためです。
一般的な野菜は多くの肥料を必要としますが、さつまいもにとっては、この「残り肥」だけで十分すぎるほどの栄養(特に窒素)となります。ここで肥料を追加すれば、確実に窒素過多となり「つるぼけ」を招きます。
「肥料なし」で収量が少ない?おすすめの肥料が必要な理由

「肥料はいらない」と聞いて無肥料で挑戦したものの、「収穫できたが、芋が小さい」「もっと大きく太らせたい」と悩むケースは少なくありません。
この原因の多くは、「つるボケ」を恐れるあまり、芋を太らせるために最低限必要な栄養素まで不足してしまっているパターンです。ここで重要なのは、「肥料=悪」ではなく、「窒素(N)の与えすぎ=悪」と正しく理解することです。
「肥料がいらない」というのは、正確には「窒素(N)はいらない(または最小限でよい)」という意味なのです。
芋を太らせる「カリウム(K)」は必要

さつまいも栽培では窒素を嫌いますが、芋を大きく太らせるためには「カリウム(K)」が非常に重要な役割を果たします。
カリウムは「根肥え(ねごえ)」や「実肥(みごえ)」とも呼ばれ、植物が光合成で作ったデンプンなどの養分を、根や芋(貯蔵器官)に転流・蓄積させるのを助ける働きがあります。
カリウムが不足すると、光合成は行われても、その成果物が芋にうまく運ばれず、結果として芋が大きく太れません。野菜栽培の後の「残り肥」では、窒素は十分でもカリウムは消費されて不足している場合があります。
結論:窒素(N)少なめ、カリウム(K)多めが理想

つるボケを防ぎつつ、美味しいイモを収穫するには、肥料の三大要素(N, P, K)のバランスが鍵となります。
さつまいも栽培における絶対的な鉄則は、「窒素(N)は極力少なく、イモを太らせるカリウム(K)を多めに配合する」ことです。
さつまいもが好む肥料バランス
もし肥料を与える場合、さつまいもは「窒素:リン酸:カリウム」の比率が「1:1.5:2」や「3:10:10」、「5:8:12」のように、窒素が少なく、リン酸やカリウムが豊富なバランスを好みます。
| 成分 | 主な役割 | さつまいも栽培での注意点 |
|---|---|---|
| N(窒素) | 葉や茎の成長(葉肥) | 【最重要】多すぎると「つるボケ」の直接的な原因になる。最小限に抑える。 |
| P(リン酸) | 花や実の成長(実肥) | 初期の根の張りを助ける。イモの品質向上にも寄与するため、標準的な量が必要。 |
| K(カリウム) | 根やイモの肥大(根肥) | 【最重要】イモを大きく甘くする。光合成産物の転流を促す。多めに施す。 |
さつまいも肥料のおすすめは「専用肥料」
初心者は市販の「専用肥料」が確実

この理想的なバランスを、硫安(窒素)、過リン酸石灰(リン酸)、硫酸カリ(カリウム)といった「単肥」を自分で計量・配合するのは、家庭菜園初心者には非常に困難です。
そこでおすすめなのが、「さつまいも専用肥料」や「いも・豆専用肥料」として市販されている製品を選ぶことです。
これらの専用肥料は、購入する時点で、あらかじめさつまいもの生育に最適なバランス、つまり「窒素少なめ・カリウム多め」に完璧に調整されています。そのため、難しい計算や配合の手間が一切不要で、つるボケのリスクを最小限に抑えながら、イモの肥大に必要な栄養素だけを適切に補給できます。
「肥料はいらないと聞いて不安だけど、あげて失敗するのも怖い…」という方にこそ、まずは専用肥料を使うのが成功への一番の近道です。「専用品は高いのでは?」と思うかもしれませんが、失敗して収穫ゼロになるリスクを考えれば、最も確実な投資と言えます。
市販の専用肥料を選ぶポイント
「さつまいも専用肥料」と一口に言っても、様々な種類があります。購入する際には、袋の裏面などに記載されている以下のポイントをチェックしてみてください。
1. NPKの成分比率(保証成分量)を確認する
肥料の袋には、必ず「保証成分量」として「N-P-K」の比率が記載されています。前述の通り、「3-10-10」や「5-8-12」のように、最初の数字(N)が他の数字(P, K)に比べて明らかに低いことを最優先で確認しましょう。逆に「8-8-8」や「10-5-10」のようなものは避けてください。
2. 有機質か化成肥料か(肥料の種類)
さつまいも専用肥料は、これらをバランスよく配合した「有機入り化成肥料」が多いです。
- 有機入り化成肥料:有機質が土壌の微生物のエサにもなり、土をふかふかにする土壌改良効果も期待できます。効き目が穏やかで、家庭菜園に最もおすすめです。
- 化成肥料:扱いやすく衛生的で、プランター栽培にも向いています。
3. 容量(サイズ)を選ぶ
家庭菜園やプランター栽培であれば、600gや1kgなどの小袋タイプが使いやすくて便利です。広い畑で本格的に栽培する場合は、10kgや20kgなどの大袋を選ぶとコストパフォーマンスが良くなります。
リン酸(P)や苦土(マグネシウム)の役割
窒素(N)とカリウム(K)以外にも、「縁の下の力持ち」として重要な役割を果たす成分があります。
リン酸(P)と苦土(Mg)の隠れた働き
リン酸(P): リン酸は「実肥」とも呼ばれ、植物の初期生育、特に根の張りを良くするために非常に重要です。植え付けた苗がしっかり土に根付き、スムーズに成長をスタートするのを助ける役割があります。
苦土(Mg / マグネシウム): 苦土は、葉の緑色の素である「葉緑素(クロロフィル)」の中心的な構成成分です。光合成を活発にするために不可欠なミネラルであり、イモのデンプン(=甘さや大きさ)は光合成によって作られるため、苦土はイモの品質を左右する重要なサポート役なのです。
優れたさつまいも専用肥料には、これらのリン酸や苦土(マグネシウム)も適切に配合されていることが多いです。
失敗しない肥料の使い方と時期
さつまいもの「元肥」を施すタイミングと量

肥料(専用肥料など)を使う場合、それは「元肥(もとごえ)」として、苗を植え付ける前に土に混ぜ込むのが基本です。
元肥は、苗を植え付ける1〜2週間前までに土に施し、クワやスコップで深く、よく耕して土全体に均一に混ぜ込んでおきます。(※有機質肥料や堆肥をメインで使う場合は、分解に時間がかかるため1ヶ月前が目安です)
施肥量は、使用する専用肥料の袋に記載されている規定量を必ず守ってください。一般的な目安としては、1平方メートルあたり50g〜100g程度です。
【最重要】「残り肥」がある畑は元肥不要!
前述の通り、もし前作(特に葉物野菜)の「残り肥」が期待できる畑では、元肥を一切施さない(無肥料)か、カリウム源となる「草木灰(そうもくばい)」のみを少量施すのが安全です。残り肥と元肥のダブルパンチが、つるボケの最大の原因です。(参考:茨城県:再生農地における カンショ栽培事例集)
追肥は原則として必要なし

さつまいもの栽培期間中、追肥(ついひ)は原則として必要ありません。
理由は、栽培途中で肥料(特に窒素)を追加すると、芋が太る時期に窒素が効いてしまい、「つるぼけ」を直接的に引き起こす原因となるからです。
例外的な追肥(肥料切れのサイン)
ただし、プランター栽培や、夏場(特に8月頃)に葉全体が明らかに黄色く変色し、生育が止まってしまった場合は、養分(特にカリウム)が不足している可能性があります。
その場合にのみ、窒素を含まないカリウム単体の肥料(例:硫酸カリや草木灰など)を、株元から少し離れた場所にパラパラとごく少量だけ施します。
やってはいけない!危険な肥料(鶏糞・米ぬか)
安価で手に入りやすいため家庭菜園で使われがちな「鶏糞」と「米ぬか」ですが、さつまいも栽培では使い方を間違えると致命的な失敗につながります。
鶏糞は窒素過多でつるボケのリスク大

家庭菜園で手軽に使える有機肥料として「鶏糞(けいふん)」がありますが、さつまいも栽培での使用は基本的に推奨されません。
鶏糞は、牛糞や豚糞といった他の家畜糞堆肥に比べ、窒素(N)成分を非常に多く、かつ速効的に含むという特徴があります。これは葉物野菜にとっては優れた肥料ですが、さつまいもにとっては「つるボケの最大の原因」そのものなのです。
さつまいも栽培においては、「鶏糞=窒素の塊」と認識し、使用を避けるのが最も賢明です。
鶏糞をどうしても土壌改良に使いたい場合
もし、土壌改良材としてどうしても鶏糞の有機質を使いたいという上級者の場合は、植え付けの最低でも2ヶ月以上前に土にすき込み、雨風にさらし、窒素成分がある程度分解・揮発するのを待つ必要があります。しかし、そのタイミング管理は非常に難しく、リスクが高いため、初心者の方は絶対に避けるべきです。
米ぬかは「発酵熱」に注意

「米ぬか(こめぬか)」も、肥料というよりも「土壌改良材」としての側面が強い有機物です。土壌中の微生物のエサとなり、土をふかふかにする効果が期待できます。
しかし、この微生物の活動が諸刃の剣となります。
【危険】生の米ぬかをそのまま使ってはダメ!
生の米ぬかを土に撒いて、すぐにさつまいもの苗を植えると、土の中で急激な発酵が始まります。この時、微生物が酸素を消費し、発酵熱や有毒なガスが発生し、植えたばかりの苗の根を深刻に傷めてしまいます(参考:農林水産省:土づくり入門 第2章「有機物の施用」)。最悪の場合、苗が枯れてしまうこともあります。
米ぬかを使う場合は、以下のいずれかの安全な方法をとる必要があります。
1. 【ぼかし肥料にする(推奨)】 油かすや水、土などと混ぜて、数週間〜数ヶ月かけて事前に発酵・熟成させた「ぼかし肥料」の状態にしてから元肥として使います。
2. 【早めに土に混ぜる】 植え付けの1ヶ月以上前(できれば冬の間)に土にすき込み、発酵のピークを終わらせておく必要があります。
肥料より重要!さつまいも栽培の土づくり
さつまいも栽培で収穫量を上げるには、肥料の有無よりも「土壌の物理性」、つまり土の準備がはるかに重要です。
石灰は不要?酸性の土壌を好む性質
多くの野菜栽培で土壌改良に使われる「石灰(苦土石灰や消石灰)」は、さつまいも栽培では基本的に不要、むしろ有害となる場合があります。
理由は、さつまいもは、他の多くの野菜が好む中性~弱アルカリ性の土壌とは異なり、pH5.5~6.0程度の「酸性」の土壌を好むという珍しい特性を持っているからです。
日本の畑は雨が多いため、もともと酸性に傾きがちですが、さつまいもにとっては、その環境がむしろ生育に適しています。
石灰をまくデメリット
- 生育の悪化:土壌がアルカリ性に傾くと、植物が必要とする微量要素(マンガンなど)の吸収が阻害され、生育が悪化することがあります。
- 病気の発生:土壌pHが高くなる(アルカリ性に傾く)と、芋の表面がカサブタ状になる「そうか病」などの病気が発生しやすくなります。
前作で石灰をまいた場合でも、追加で石灰を入れる必要は一切ありません。
肥料より重要な土壌の準備(高畝)

さつまいもの芋は土の中で肥大します。土が硬く締まっていたり、水はけが悪かったりすると、芋がスムーズに大きくなるスペースがなく、根腐れを起こしやすいためです。
肥料よりも優先すべき3大ポイント
- 深く耕す:芋が伸びるスペースを確保するため、植え付け場所の土は深く(30cm以上)耕し、石やゴミを取り除いておきます。
- 畝(うね)を高くする:最も重要な作業です。畝を高く(目安30cm以上)することで、水はけと通気性が劇的に改善され、芋が横に広がるスペースも確保できます。
- 堆肥(たいひ)を入れる:完熟した牛ふん堆肥やバーク堆肥を土に混ぜ込みます。これは肥料目的ではなく、土をふかふかにして通気性や保水性を改善する「土壌改良」が目的です。
肥料をゼロにしても、この「高畝」と「ふかふかの土」さえ準備できれば、家庭菜園でも十分な収穫が期待できます。
プランター栽培で肥料を与えるコツ

ベランダや軒先などで、プランターや野菜用の大きな袋を使って栽培を行う場合も、基本的な肥料の考え方は畑と同じ(窒素少なめ・カリウム多め)です。
ただし、畑での栽培とは決定的に異なる点が2つあります。
- 土の量が絶対的に限られるため、元肥は必須。
- 水やりで肥料成分が土の外に流れ出しやすい(流亡)。
畑のように「残り肥」は期待できないため、元肥を入れないとほぼ間違いなく生育不良になります。
プランター栽培の肥料のコツ
1. 元肥は必ず専用肥料を使う まず、元肥として必ず「さつまいも専用肥料」を培養土に規定量(畑よりやや少なめが安全)混ぜ込みます。この時、市販の「野菜用培養土」は、葉物野菜用に最初から肥料(窒素)が多く含まれている場合があるため注意が必要です。
2. 追肥の準備もしておく プランター栽培では、毎日の水やりでカリウムなどの重要な成分が流れ出しやすいです。そのため、夏場(7〜8月)に葉色が薄く、元気がなくなってきたら、肥料切れのサインです。その場合は、専用肥料を規定量の半分程度、ごく少量だけプランターの縁に沿って追肥してください。
さつまいも肥料「おすすめ・いらない」の総括
「さつまいも 肥料 おすすめ いらない」という疑問について、これまでの情報をまとめます。ご自身の栽培環境に合わせて判断することが大切です。
- 「肥料いらない」は、主に「窒素(N)がいらない」という意味
- 窒素過多は「つるボケ」を招く最大の原因
- 野菜栽培の後の畑は「残り肥」で十分なため無肥料が基本
- 「おすすめ」なのは芋を太らせる「カリウム(K)」
- 初心者は「窒素少なめ・カリウム多め」の専用肥料がおすすめ
- 肥料は植え付け1〜2週間前の「元肥」のみが基本
- サブキーワード「元肥」は、残り肥がない痩せ地やプランターで必要
- 栽培中の「追肥」は原則として必要ない
- サブキーワード「鶏糞」は、高窒素のため使用を避けるのが賢明
- サブキーワード「米ぬか」は、発酵熱が出るため「ぼかし」や「早期施用」が必須
- さつまいもは「酸性土壌」を好むため「石灰」は基本的に不要
- 肥料よりも「高畝」「ふかふかな土」の土壌準備が最重要
- プランター栽培では元肥が必須で、追肥も必要な場合がある

