家庭菜園で大人気のさつまいもですが、初心者の方が最も悩むのが「さつまいもの苗を植える時期」ではないでしょうか。実は、この植え付けのタイミングが、秋の収穫量を大きく左右する重要なポイントになります。
適切な時期を逃すと、せっかく育てたのに芋が小さい、数が少ないといった失敗に繋がることも少なくありません。この記事では、家庭菜園で失敗しないための植え付けのコツから、その後の育て方まで、誰でも実践できるよう分かりやすく解説します。
- さつまいも栽培に最適な植え付け時期
- お住まいの地域に合わせたタイミング
- 収穫量を増やすための苗の選び方と植え方
- 植え付け後の栽培管理で重要なポイント
さつまいもの苗を植える時期の判断基準
さつまいもの苗を植える時期は、「5月になったから」といったカレンダーの日付だけで決めてしまうのは少し早いかもしれません。秋にたくさんの芋を収穫するための成功の鍵は、植え付けの「タイミング」を見極めること。
お住まいの地域ごとの目安はもちろんですが、それ以上に重要なのが、土の温度である地温です。さらに、どのような苗を選び、どう植えるかによっても、その後の生育は大きく変わってきます。
ここでは、失敗しない植え付けのタイミングを判断するための、具体的な基準を詳しく解説していきます。
地域別にみる植え付け時期の目安
さつまいもの植え付けに適した時期は、お住まいの地域によって異なります。これは、生育に不可欠な気温や地温、そして霜が降りなくなるタイミングが場所によって違うためです。ご自身の地域に合ったベストなタイミングで植え付けを行いましょう。
一般的に、暖かい地域ほど植え付け時期は早くなります。以下に、地域ごとの大まかな目安をまとめました。
地域 | 植え付け時期の目安 | ポイント |
---|---|---|
九州など西日本 | 4月下旬~5月上旬 | 温暖な気候のため、全国的に見ても早く植え付けを開始できます。 |
関東など東日本 | 5月中旬~5月下旬 | ゴールデンウィークが明けて、遅霜の心配が完全になくなってからが安心です。 |
東北地方 | 6月上旬以降 | 気温が十分に上がるのを待ってから植え付けます。生育期間が短くなるため、早生品種を選ぶのも一つの方法です。 |
あくまで目安です
上記の時期はあくまで一般的な目安です。その年の天候によって気温は変動するため、必ず天気予報で最低気温を確認し、遅霜のリスクがないことを確かめてから作業を始めてください。
植え付けの目安となる地温は18℃以上
さつまいもの苗を植える際、最も重要な判断基準となるのが「地温」です。品種や地域に関わらず、地温が安定して18℃以上になってから植え付けるのが、失敗しないための絶対条件と言えます(参考:全農:サツマイモの育て方)。
なぜなら、さつまいもはもともと暖かい地域の植物であり、地温が低いと苗がうまく土に根付かず(活着せず)、最悪の場合枯れてしまうからです。焦って早く植え付けても、低温で生育が停滞してしまい、結果的に適期に植えたものより収穫が遅れるケースも少なくありません。
地温を測ってみよう
正確な地温を知りたい場合は、地温計を使うのが確実です。ホームセンターなどで手軽に入手できます。植え付けを予定している畝(うね)の深さ10cm程度の場所に差し込み、数日間計測して安定して18℃を超えているか確認しましょう。
地温計がない場合でも、八重桜が散る頃や、お住まいの地域の気象庁が発表する過去の平均気温データなどを参考に、タイミングを見計らうことができます。
収穫量を左右する良い苗の選び方
美味しいさつまいもをたくさん収穫するためには、植え付け前の「苗選び」が非常に重要です。元気で質の良い苗を選ぶことで、植え付け後の根付きがスムーズになり、その後の生育に大きな差が生まれます。
ホームセンターや園芸店で苗を選ぶ際は、以下のポイントをチェックしてみてください。
良い苗を見分ける5つのチェックリスト
- 茎が太くてしっかりしているか
ひょろひょろと細いものではなく、がっしりとして力強い茎の苗を選びましょう。 - 節と節の間が詰まっているか
節の間が間延びしている「徒長(とちょう)」した苗は避け、節間がキュッと詰まっているものを選びます。 - 葉の色が濃く、厚みがあるか
健康的で生命力のある苗は、葉の色が濃い緑色をしています。病気の斑点や虫食いの跡がないかも確認してください。 - 葉の数が5~6枚程度ついているか
葉の数が適度についている25~30cm程度の長さの苗が、植え付けに最適な状態です。 - 根が少し出ているか
茎の節から、白い根が少しだけ出ている苗は非常に元気な証拠です。
購入した苗は、できるだけその日のうちに植え付けるのが理想です。すぐに作業できない場合は、バケツなどに浅く水を張り、根元を浸して日陰で保管しておくと苗の鮮度を保てますよ。
目的に合わせた植え付け方法の種類
さつまいもの植え付け方法には、いくつかの種類があります。どの方法を選ぶかによって、収穫できる芋の数や大きさが変わってくるため、ご自身の目的に合わせて最適な植え方を選びましょう。ここでは、家庭菜園で代表的な3つの方法をご紹介します。
植え方 | 特徴 | こんな人におすすめ |
---|---|---|
船底植え(水平植え) | 苗を地面と水平になるように浅く植える方法。土に埋まる節の数が多くなるため、数はたくさん採れるが、大きさは不揃いになりやすい。 | 初心者の方、とにかくたくさん収穫したい方 |
斜め植え | 苗を30~40度の角度で土に差し込むように植える方法。芋の大きさや形が揃いやすく、バランスが良い。最も一般的な植え方。 | 大きさや形を揃えたい方、どの植え方か迷っている方 |
垂直植え | 苗を地面に対して垂直に、まっすぐ植える方法。土に埋まる節が少ないため、数は少なくなるが、一つ一つが大きく育ちやすい。 | とにかく大きな芋を育ててみたい方 |
家庭菜園では、畝幅70cm、株間30cm程度が一般的な目安です。どの方法で植える場合でも、芋になる部分である「節」が必ず2~3節は土の中に埋まるように植え付けてください。
地温確保に効果的なマルチの利用
さつまいも栽培の成功率を格段に上げてくれるアイテムが「マルチシート」です。特に家庭菜園では、利用するメリットが非常に大きいので、ぜひ活用をおすすめします。
マルチシートとは、畑の畝を覆うビニールフィルムのことで、主に以下のような効果が期待できます。
マルチシートを利用する4大メリット
- 地温の確保
太陽の熱を吸収し、土の温度を高く保つ効果があります。特に黒色のマルチは地温上昇効果が高く、植え付け後の苗の活着を促進します。 - 雑草の抑制
光を遮断することで、厄介な雑草が生えるのを防ぎます。これにより、除草の手間が大幅に削減できます。 - 土壌水分の保持
土の表面を覆うことで、水分の蒸発を防ぎ、土の乾燥を和らげる効果があります。 - 病気の予防
雨による泥はねを防ぎ、土の中にいる病原菌が葉に付着するのを防ぎます。
使い方は、肥料をまいてよく耕した後に畝を立て、その表面を覆うようにマルチシートを張ります。シートが風で飛ばされないよう、端はしっかりと土で押さえて固定するのがポイントです。
さつまいもの苗を植える時期からの栽培管理
さつまいもの苗を植える時期を守って、無事に植え付け作業、お疲れ様でした!
でも、「植えたらおしまい」ではありません。秋に甘くて大きな芋を収穫するためには、植え付けた「後」の栽培管理が非常に重要です。
「水やりはいつまで必要?」「肥料をあげすぎると”つるぼけ”するって本当?」「”つる返し”は結局やったほうがいいの?」
ここでは、苗をしっかり根付かせる(活着させる)ための水やりのコツから、失敗しない肥料のポイント、収穫までの日数まで、初心者が迷いがちな管理方法を分かりやすく解説していきます。
植え付け後の水やりは活着が鍵
さつまいもは乾燥に強い作物として知られていますが、それはあくまで土にしっかりと根付いた後の話です。植え付け直後の苗は、まだ自分で水分を十分に吸い上げる力がないため、この時期の水管理がその後の生育を大きく左右します。
ポイントは、植え付けてから根が活着するまでの約1週間です。この期間は、土の表面が乾いたらたっぷりと水を与え、苗がしおれないように管理してください。植え付けた苗の先端が持ち上がり、葉がピンと元気になってきたら、それが無事に根付いた(活着した)サインです。
活着した後は、基本的に水やりの必要はありません。自然の雨だけで十分に育ちます。むしろ、水のやりすぎは根腐れの原因になることもあるので注意しましょう。ただし、真夏に何週間も雨が降らず、土がカラカラに乾ききっているような場合は、様子を見て水を与えてくださいね。
窒素肥料の与えすぎに注意する
「作物を育てるなら肥料はたっぷり」と思いがちですが、さつまいも栽培においてはそれが失敗の原因になることがあります。特に注意したいのが、葉や茎を育てる働きのある「窒素(チッソ)」成分です。
さつまいもはもともと肥料を吸収する力が強く、やせた土地でも育つ作物です。そのため、窒素肥料が多すぎると、葉や蔓(つる)ばかりが青々と茂ってしまい、肝心の土の中の芋が全く大きくならないという現象が起こります。これを「つるぼけ」と呼びます(参考:一般財団法人いも類振興会:サツマイモの特性)。
肥料は「控えめ」が基本
さつまいもを植える畑の準備では、元肥として専用の配合肥料を少量施す程度で十分です。もし前に別の野菜を育てていた畑であれば、土に肥料分が残っている可能性が高いため、無肥料で栽培するのがおすすめです。また、生育途中の追肥も基本的には行いません。
芋を甘く、大きく育てるためには、葉や茎の成長を助ける「窒素」よりも、芋の肥大を助ける「カリウム」成分が重要になります。肥料を与える場合は、成分表示をよく確認しましょう。
つるぼけを防ぐ育て方のポイント
前述の通り、窒素肥料の与えすぎは「つるぼけ」の最大の原因ですが、他にもいくつかの要因が重なって発生することがあります。葉や蔓ばかりが茂って芋が育たない、という悲しい結果を避けるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
つるぼけの主な原因と対策
- 窒素肥料の過多
対策:元肥は控えめにし、追肥は基本的に行わない。野菜の後作地では無肥料栽培を検討する。 - 日照不足
対策:一日中よく日が当たる場所を選ぶ。株間を適切にとり、葉が密集しすぎないようにする。 - 水はけの悪い土壌
対策:水はけを良くするために、畝を高く立てる(高畝)。水が溜まりやすい場所での栽培は避ける。
つるぼけしてしまった芋は、デンプンの含有量が少なく、水っぽくて食味が劣る傾向があります。美味しいさつまいもを収穫するためにも、これらの原因を理解し、適切な環境で育てることが大切です。
つる返しの必要性とタイミング
さつまいも栽培について調べると、「つる返し」という作業を目にすることがあります。これは、夏場に伸びてきた蔓を持ち上げてひっくり返し、蔓の途中から地面に伸びた根(不定根)を引きはがす作業のことです。
かつては、この不定根に栄養が取られて芋が大きくならないと考えられていたため、必須の作業とされていました。しかし、現在の主流品種の多くは、この不定根が芋になることはほとんどないため、基本的につる返しは不要というのが一般的な見解です。
もちろん、絶対にしてはいけない訳ではありません。蔓が密集しすぎて風通しが悪くなっている場合や、畑の管理作業をしやすくするために蔓の向きを揃える、といった目的で行う分には問題ありません。ただ、収穫量を増やすために必須の作業ではない、と覚えておくと良いでしょう。
むしろ、真夏の炎天下で無理につるを動かすと、株にダメージを与えてしまう可能性もあります。栽培の手間を減らすという意味でも、つる返しは必須ではないと考えるのが現代の主流です。
植え付けから収穫までの日数と目安
植え付けから収穫までの期間は、品種や栽培する地域によって多少前後しますが、一般的には約120日~140日(およそ4ヶ月)が目安となります。
例えば、5月中旬に苗を植え付けた場合、9月中旬から10月上旬あたりが収穫の適期になります。収穫が早すぎると芋が十分に大きくなっておらず、逆に遅すぎると芋が大きくなりすぎて形が悪くなったり、食味が落ちたりすることがあります。
収穫適期を見極めるサイン
- 植え付けからの日数を計算する
まずは基本となる120日を目安に収穫予定日を立てましょう。 - 下のほうの葉が黄色く変化してきた
株が成熟し、芋に栄養が十分に蓄えられたサインの一つです。 - 試し掘りをする
最も確実な方法です。株元を少し掘ってみて、芋の太り具合を直接確認してみましょう。十分な大きさになっていれば収穫開始です。
霜が降りる前に収穫を!
さつまいもは寒さに非常に弱い作物です。霜にあたると芋が傷んでしまい、保存がきかなくなります。天気予報を確認し、必ずその地域で最初の霜が降りる前までには全ての収穫を終えるように計画を立ててください。
さつまいもの苗を植える時期を守り豊作へ
- さつまいもの植え付けは5月上旬から6月下旬が適期
- 最も重要な判断基準は地温が18℃以上であること
- 九州などの暖地では4月下旬から植え付けが可能
- 関東では5月中旬、東北では6月上旬が目安
- 良い苗は茎が太く節間が詰まり葉色が濃い
- 収量を重視するなら船底植えや水平植えがおすすめ
- 芋の形や大きさを揃えたい場合は斜め植えが良い
- 地温確保や雑草防止にマルチシートの利用が効果的
- 植え付け後1週間は根付かせるための水やりが重要
- 根が活着した後は基本的に水やりは不要
- 肥料のやりすぎ、特に窒素過多はつるぼけの原因
- 野菜の後作地では無肥料でも十分に育つ
- 現代の品種ではつる返しは基本的に必要ない作業
- 収穫は植え付けから約120日後が目安
- 霜が降りる前に必ず収穫を完了させる